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仙台高等裁判所 昭和50年(ツ)14号 判決 1975年10月20日

上告人 菅田浩二

上告人 菅田盛三

右両名訴訟代理人弁護士 大川修造

岩間幸作

被上告人 菊池万蔵

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告理由は別紙記載のとおりである。

上告代理人大川修造の上告理由一について

上告人らの原審で陳述した準備書面には、「右調停事件(盛岡家庭裁判所遠野支部昭和二七年(家イ)第二八号遺産分割調停事件を指す。)の不成立ないし無効原因事実が存在する」とか、「右調停事件は不成立ないし無効である」とか記載されていること、原判決は「昭和二七年九月一〇日盛岡家庭裁判所遠野支部において菅田右市の遺産につき遺産分割の調停が成立したことは当事者間に争いがなく、」と判示していること、所論指摘のとおりである。ところで、調停の不成立又は無効を主張するには、単に、不成立ないし無効原因がある、と主張したのみでは足りず、不成立ないし無効原因に該当する具体的事実を主張すべきである。上告人らが事実審において主張したこの点に関する具体的事実は原判決が事実摘示の第二の五の1に記載するとおりであり、右以外の具体的主張は存しない。そして、右各主張は成立した調停の無効を主張するものである。したがって、上告人らの事実審における主張は、「不成立ないし無効原因がある」というものの、実は成立した調停の無効を主張するものである。原審が、調停の成立は当事者間に争いがなく、成立した調停の効力につき争いがあるものと上告人らの主張を把握したのは相当であり、この点について所論の違法は存しない。

同二について

裁判所が調停を成立させ、調停調書を作成するのは、裁判所が当事者の出頭と合意の成立を認めたからにほかならない(そうでなければ裁判所は調停を成立させることはない)。それが裁判所の職務執行の通常の仕方である。そうであるから、当事者は裁判所で調停が成立したからにはそれが有効であると信頼する。本件において、盛岡家庭裁判所遠野支部は本件遺産分割調停を成立させている。右裁判所は当事者がみな出頭し合意が成立したと認めたにちがいない。そうでなければ調停を成立させることはないはずである。その場合、不幸にも当事者の一人の不出頭という瑕疵があったとしても、裁判所が良しと判断して調停を成立させた以上、当事者としては調停の有効を信ずるのが当然であり、そう信じたことに過失があるということはできない。したがって、原判決が「上告人らの主張するような無効原因が存在したとしても、いやしくも裁判所において調停が成立した以上、右調停によって菅田俊男が所有者になったと信ずるのは当然のことである。……そう信ずるにつき過失があるということはできない。」旨判示したのは相当である。所論は採用できない。

同三について

所論は、上告人らの遺言状偽造の主張を排斥した原審の判断を非難するが、原審の判断はその挙示する証拠により優に肯認しうるところであり、所論は要するに原審の専権に属する事実の認定証拠の取捨判断を非難するものであって採用できない。

なお、所論は、上告人らの原審における昭和四九年一一月二八日付準備書面に記載した主張に対して判断していないと非難する。上告人らは本件右市の遺言状は菅田俊男が偽造したものであると主張し(いわば、幹の主張)、右主張の支えとして、更に掘り下げた主張――遺言状の中の言葉をいくつか取り上げてこれを非難する――を右準備書面に記載した(いわば、枝の主張)。裁判所がこれに対する判断を示すには、遺言状偽造の事実は認められない旨幹の主張に対する判断をすれば足り、右幹の主張の支えとしての枝の主張に対してまで一々判断を示す必要はない。幹の主張に対する判断によって枝の主張に対する判断も示したことになる。原審は、遺言状偽造という幹の主張に対し、鑑定の結果などの証拠を採用して判断しており(この判断はその挙示する証拠により是認しうるところである。)、何らの違法は存しない。

上告代理人岩間幸作の上告理由第一の(一)について

所論は「本件は菅田俊男が単独の相続人であると僣称し、上告人らを排斥して相続財産である本件土地を占有した場合である」ことを前提として、相続回復請求権との関係を主張しているが、本件は遺産分割の調停により本件土地が菅田俊男の所有とされた場合であること、原審の確定するところである。所論はその前提において失当であって採用できない。

同(二)について

その1は、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するものであって採用できない。

その2について、善意、無過失は占有の始めに存すれば足り、占有期間中継続することを要しない。所論は採用できない。

同(三)について

菅田俊男の本件土地に対する占有が自主占有であるとの原審の判断には、所論の違法は存しない。所論は結局原審が適法にした事実の認定を非難するに帰し、採用できない。

同(四)について

原判決が菅田俊男の本件土地の占有開始を昭和二七年九月一〇日と認定したことは、その挙示する証拠により優に肯認できるところである。原判決には所論の違法はなく、所論は採用できない。

同(五)について

この点は、上告代理人大川修造の上告理由一に対する前記判示のとおりである。

原判決には所論の違法は存しない。

同(六)について

所論は、原判決が上告人らの遺言状偽造の主張を排斥したことを非難するが、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するにすぎず、採用できない。

同第二について

原審が乙第一九号証を採用し、吉丸正夫を証人として再尋問しなかったこと所論のとおりであるが、この点は事実審の専権に属するところであり、何ら審理不尽の違法はない。

よって、民事訴訟法四〇一条、九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井義彦 裁判官 石川良雄 守屋克彦)

<以下省略>

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